夜中の車内は予想通り冷え込み、浅い眠りのなかでずっと寒さを感じていた。隣の男が降りて他の客が乗り込んできたとき、これでは余計体調をこじらせてしまうぞと、暗闇のなか手探りでバックパックを探した。客席のあいだにうずたかく積み上げられた荷のなかからなんとか自分のものを引っぱり出し、寝袋を取り出した。床に落とした袋を拾い上げると、びっしょりと濡れている。床に液体が流れているらしかったがにおいを嗅ぐと無臭で、誰かの小便ではなかったことに安堵した。はじめてつかう寝袋は暖かく、邪魔に思いながら運んできた甲斐があった。
何時ごろなのか、新たな客のためにバスが停まったらしい。目をあけると、前席のおっさんが座席に立ち上がり、窓から小便を放ちはじめた。寝台バスの床で子供に小便をさせるのは見たことがあるが、こんな光景ははじめてだ。しかし他の客が見咎める様子もなく、気に留めてさえいないようで、さすがマナーの面では何でもありだ。
深い眠りから目をさますと、闇は去っていた。窓の外では遠い地平線から朝日が昇りつつあった。それは紫と赤の混ざった澄んだ光を放ち、地平線の家々のシルエットをなぞっていた。まわりの乗客はまだ目を閉じ、外に目をやる者はいない。ぼくはふしぎな清冽さに包まれながら、曙光に浮かび上がっていく、半分眠りのなかにある世界をじっと見つめた。
あたりがすっかり明るみ、道を行く人々の姿が見えはじめた頃、バスが停まった。昨夜、強引な呼び込みと有無を言わせぬ値段交渉でバスを満席にした若い男が、じゃあねという調子でバスをさっと降りていった。降り際に男はぼくの寝袋をちらりと目をやり、目を合わせながらにやっと笑った。
少しのあいだ、停車したバスの中はしんとしていたが、ギョロ目の別の乗務員が鋭い言葉を発すると、